かと少しく躊躇したのであるが、普通の怪談とはその選を異にし、死から一旦《いったん》よみがえったラザルスという男を象徴にして、「死」に対する人間の恐怖を力強く描いたもので、こういう物も一つぐらいは読んで貰いたいという心から掲載することにしたのである。
 アラン・ポーの作品――殊《こと》にかの「黒猫」のごときは、当然ここに編入すべきであったが、この全集には別にポーの傑作集が出ているので、遺憾ながら省《はぶ》くことにして、その代りに、ポーの二代目ともいうべきビヤースの「妖物《ダムドシング》」を掲載した。人にあらず、獣《けもの》にあらず、形もなく、影もなく、わが国のいわゆる「鎌いたち」に似て非なる一種の妖物が、異常の力をもって人間を粉砕する怪奇の物語は、実に戦慄に値すると言ってよかろう。
 支那も怪談の本場であるから、いわゆる「志怪」の書なるものは実に枚挙に暇《いとま》あらず、これもその選択にすこぶる窮したのであるが、紙数の都合で「牡丹燈記」を選ぶことにした。これは「剪燈《せんとう》新話」中の一節で、誰も知っている「牡丹燈籠」の怪談の原作である。
 ここに編入されたものは、外国の怪談十六種、支
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