世界怪談名作集
序/目次
岡本綺堂編訳
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)已《や》む得ない
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序
外国にも怪談は非常に多い。古今の作家、大抵は怪談を書いている。そのうちから最も優れたるものを選ぶというのはすこぶる困難な仕事であるので、ここでは世すでに定評ある名家の作品のみを紹介することにした。したがって、その多数がクラシックに傾いたのはまことに已《や》む得ない結果であると思ってもらいたい。
怪談と言っても、いわゆる幽霊物語《ゴースト・ストーリー》ばかりでは単調に陥る嫌いがあるので、たとい幽霊は出現しないでも、その事実の怪奇なるものは採録することにした。たとえば、ホーソーンの作には「ドクトル・ハリスの幽霊」があるにもかかわらず、ここには「ラッパチーニの娘」を採録した類である。ストックトンの「幽霊の移転」のような、ユーモラスの物を加えたのも、やはり単調を救うの意にほかならない。
アンドレーフの作のごときはすこぶる芸術味の豊かなもので、大衆向きにはどうあろうかと少しく躊躇したのであるが、普通の怪談とはその選を異にし、死から一旦《いったん》よみがえったラザルスという男を象徴にして、「死」に対する人間の恐怖を力強く描いたもので、こういう物も一つぐらいは読んで貰いたいという心から掲載することにしたのである。
アラン・ポーの作品――殊《こと》にかの「黒猫」のごときは、当然ここに編入すべきであったが、この全集には別にポーの傑作集が出ているので、遺憾ながら省《はぶ》くことにして、その代りに、ポーの二代目ともいうべきビヤースの「妖物《ダムドシング》」を掲載した。人にあらず、獣《けもの》にあらず、形もなく、影もなく、わが国のいわゆる「鎌いたち」に似て非なる一種の妖物が、異常の力をもって人間を粉砕する怪奇の物語は、実に戦慄に値すると言ってよかろう。
支那も怪談の本場であるから、いわゆる「志怪」の書なるものは実に枚挙に暇《いとま》あらず、これもその選択にすこぶる窮したのであるが、紙数の都合で「牡丹燈記」を選ぶことにした。これは「剪燈《せんとう》新話」中の一節で、誰も知っている「牡丹燈籠」の怪談の原作である。
ここに編入されたものは、外国の怪談十六種、支
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