の毒そうな顔をして、それは定めてお困りだろう。実はわたしも福岡まで行くのだから、一緒に切符を買ってあげようといって、わたくしを汽車に乗せてくれました。
 わたくしは馬鹿ですからいい気になって連れられて行くと、汽車がある停車場に停まって、その男がここで降りるのだという。福岡にしては何だか近過ぎるようだと思いながら、そのまま一緒に汽車を出ると、男は人力車を呼んで来て、わたくしを町はずれの薄暗い料理屋へ連れ込みました。
 去年の覚えがあるので、あっ[#「あっ」に傍点]と思いましたがもう仕方がありません。福岡というのは嘘で、福岡まではまだ半分も行かない途中の小さい町で、ここも案の通りのあいまい茶屋でした。おどろいて逃げ出そうとすると、そんなら汽車賃と車代を返して行けという。どうにもこうにも仕様がないので、とうとうまたここで辛い奉公をすることになってしまいました。それでもあんまり辛いので、三月ほど経ってから兄のところへ知らせてやると、兄がまたすぐに迎いに来てくれました。」
 女の話はなかなか長いが、おなじようなことを幾度も繰返すのもうるさいから、かいつまんでその筋道を紹介すると、女は再び故郷の村
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