ちに、誰かにそそのかされたとみえて、十四の秋になって何処へか奉公に出たいと言い出した。勝田の家は母のお種と総領の良次、妹のおむつと弟の達三の四人ぐらしで、良次と達三は田や畑の方を働き、店の方はお種とおむつが受持っているのであるから、ひとりでも人が欠けては手不足を感じるので、母も兄弟もおむつを外へ出すことを好まなかった。家じゅうが総反対で、とても自分の目的は達せられないと見て、おむつは無断で姿をかくした。
「そのときは心配しましたよ。」と、良次は今更のように嘆息した。「それから手分けをして、妹の行くえを探しましたが、なかなか知れません。とうとう警察の手をかりて、その翌年の三月になって、初めて妹の居どころが判ったのですが……。妹は熊本に近いある町の料理屋へ酌婦に住み込んでいたのです。わたくしはすぐに駈けつけて、その前借金を償《つぐな》って、一旦実家へ連れて帰ったのですが、ふた月三月はおとなしくしているかと思うとまた飛び出す。その都度《つど》に探して歩く。連れて帰る。そんなことがたびたび重なるので、母もわたくしももう諦めてしまって、どうとも勝手にしろと打っちゃって置くと、五年あまりも音信不通
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