ことを秋山もよく知っていた。
「そこで、あとのことは藤次郎にあずけて来ましたが、どうでしょう。」と、奥野は秋山の顔色をうかがいながら言った。
「それでよかろう。」
 手先の藤次郎は初めからこの事件に係り合っている上に、平生から相当の腕利きとして役人たちの信用もあるので、秋山も彼にあずけて置けば大丈夫であろうと思った。そこで今後の処置は藤次郎の探索の結果を待つことにして、奥野はひとまず別れて帰った。
 ゆうべの雨は暁け方からやんだが、きょうも一日曇り通して薄ら寒い湿っぽい夜であった。奥野が帰ったあとで、秋山は又もや机にむかって、あしたの吟味の調べ物をしていると、屋根の上を五位鷺《ごいさぎ》が鳴いて通った。
 かれは自分がいま調べている仕事よりも、伊兵衛殺しの一件の方が気になってならなかった。事件そのものが重大であるというよりも、幽霊の仮装を使って自分をだまそうとした彼らの所業が忌々《いまいま》しくてならないのである。
 土地の奴らをだますのはともあれ、自分までも一緒にだまそうというのは、あまりに上《かみ》役人を侮った仕方である。一日も早く彼らの正体を見あらわして、ぐうの音も出ないように退
前へ 次へ
全24ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング