。透さんが台湾へ行って蛇に殺されるというのは……。学校を出たときに、北海道と台湾とに奉職口があって、桐沢さんは北海道の方へ行ったら好かろうと勧めたのだそうですが、本人はどうしても台湾へ行くと言って出かけたので……。もし北海道へ行っていれば、そんな事にもならなかったのでしょうに……。どう考えても、なにかの因縁がありそうですね。」
「そう言えば、まったくそうです。」と、わたしも溜息まじりに答えた。「そうして、多代子さんの方はどうしました。」
「多代子さんは無事です。あの人は幸福でしょう。」
 奥さんの話によると、多代子は学校を出ると間もなく、桐沢氏の媒妁《ばいしゃく》で、現在の夫の深見氏方へ縁付いたのである。深見氏は養子で、その実家が広島県のKの町にあることは世間でも知っているのであるから、関係者一同が知らない筈はない。Kの町の蛇がFの町へゆく――その汽車ちゅうの出来事をわたしから聞かされているので、深見氏がKの町の出身であるということに就いて、奥さんは何だか気が進まないように思ったそうであるが、先生は頭からそんなことを問題にしなかった。三好家にも異存はなかった。兄の透も反対しなかった。そ
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