ろに親戚があるので、自分の畑から唐蜀黍を取り、Kの町へ出て来て蟹《かに》の缶詰を買い、それらを土産にしてこれから親戚をたずねようとするのであった。勿論、蛇などを持って来る筈《はず》がない。こんな小さな蛇は親戚の村にもたくさんに棲んでいると、彼は言った。
 農村の者が農村の親戚を訪問するのに、こんな蛇などをわざわざ手みやげに持って行く筈がない。一尺ぐらいに過ぎない蛇であるから、おそらくその唐蜀黍と一緒にまぎれ込んで来たものであろうとは、誰にも想像されるところである。殊に飛んでもない人騒がせをしたことを、非常に恐縮しているらしい彼のおとなしい態度が諸人の感情をやわらげた。
「そうすると、畑からまぎれ込んだのを、あなたも知らなかったのですね。では、まあ、仕方がない。早く外へ捨てて下さい。」
「はい、はい。」と、男はあやまるように頭を下げた。
「早くして下さい。もう直ぐに停車場へ着きますから。」と、車掌は催促した。
 男は農家の人だけに、こんな蛇をなんとも思っていないらしく、無雑作《むぞうさ》にその尾をつかんで窓の外へ投げ出すと、車内の人々は安心したように息をついた。
「どうもまことに相済みま
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