をひどく憎《にく》がるのです。」
「腹ちがいですか。」と、わたしは訊いた。
「いいえ、同じ阿母《おっか》さんで、ほんとうの兄妹《きょうだい》なのですが……。その癖、ふだんは仲好しで、妹をずいぶん可愛がっているようですが、時々に――まあ、発作的とでもいうのでしょうかね、無暗に妹が憎くなって、別になんという子細もないのに、多代子さんの髪の毛をつかんで引摺り廻したり、打《ぶ》ったり蹴《け》ったりするのです。自分でもたびたび後悔するそうですが、さあ憎くなったが最後どうしても我慢が出来なくなって、半分は夢中で乱暴をするのだそうです。それですから、わたしの家でも注意して、透さんが妹をたずねて来た時には、内々警戒しているくらいです。けれども、まさかに蛇を投込むなどとは思いも付きませんし、脅迫の手紙の筆蹟もまるで違っていましたから、他人の仕業だと思って警察へも届けたような訳ですが……。刑事がそう言うくらいでは、やっぱり透さんの仕業だったかも知れません。なにしろ一緒に帰さないで好うござんした。よもやとは思いますけれど、汽車のなかで不意に乱暴を始められたりしたら、大変ですからね。透さんも初めのうちはそれほ
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