そのほかにも同じような悪戯《いたずら》者があるらしいのです。その証拠には、佐倉の拘留中にも往来の婦人にむかって、やはり蛇を投げ付けた者があるのですから……。」
「それが三好透だと言われるのですね。」
「どうもそうらしいのですが……。しかし、あなたの言われた通り、他人は格別、実の妹にもそんな悪戯をするのは……。ちっとおかしいように思われますね。」
刑事は考えていた。わたしも考えさせられた。二人は暫く黙って雨のなかに立っていた。
四
そのうちに、私はふと思い出したことがあった。
「しかし、あなたも御承知でしょうが、多代子さんの所へしばしば手紙をよこして、根津権現の門前まで出て来い、さもなければ、いつまでも蛇をもっておまえを苦しめると脅迫した者があるそうです。それもやはり兄の仕業でしょうか。三好透という男は、なんの必要があって自分の妹をそんなに脅迫するのでしょうか。また、自分の兄の筆蹟ならば、多代子さんは無論見知っているでしょうし、江波博士の家の人たちも、大抵は知っている筈でしょうに……。」
「それはね。」と、刑事は打消した。「三好透がなんのために妹を脅迫するのか判りません
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