んの顔へ……きゃっ[#「きゃっ」に傍点]という騒ぎのうちに、相手は逃げてしまったのですが、なんでも横手の生垣《いけがき》を破って忍び込んだらしいのです。娘の話では、そのうしろ姿が若い学生らしかったということです。まだそれだけなら好いのですけれど、その後にたびたび多代子さんのところへ脅迫状をよこして、午後八時ごろまでに根津権現の表門前まで来てくれ、さもなければ、いつまでも蛇をもってお前を苦しめるからそう思え、というようなことが書いてあるのです。一度や二度は打っちゃって置きましたけれど余りたびたび重なるので、一応は警察へ届けて置く方がよかろうといって、良人《うち》はさっきから警察へ行っているのです。いずれ不良青年の仕業《しわざ》でしょうけれど、困ってしまいますよ。」
「けしからんことですな。それで多代子さんは寝ているんですか。」
「なんだか気分が悪いといって、二、三日前から学校を休んでいるのです。」
勿論、不良青年の仕業であろうが、その青年がもしや広島県のKの町の人間ではないかと、わたしは考えた。そうして、思わず口をすべらせた。
「多代子さんには蛇が祟《たた》っているようですな。」
「な
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