深見夫人の死
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)何人《なんぴと》も
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)突然|仆《たお》れた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぞっ[#「ぞっ」に傍点]と
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一
実業家深見家の夫人多代子が一月下旬のある夜に、熱海の海岸から投身自殺を遂げたという新聞記事が世間を騒がした。
多代子はことし三十七歳であるが、実際の年よりも余ほど若くみえるといわれるほどの美しい婦人で、種々の婦人事業や貧民救済事業にもほとんど献身的に働いていることは何人《なんぴと》も知っている。その主人公の深見氏もまた実業界において稀に見るの人格者として知られていて、財産もあり、男女二人の子供もあり、家庭もきわめて円満である。彼女になんの不足があって、あるいは又なんの事情があって、突然にかかる横死《おうし》を遂げたのか、それが一種不可解の謎として世間をおどろかしたのであった。したがって、それに就いて種々の臆説が伝えられたが、いずれも文字通りの臆説であって、ほとんど信をおくに足るようなものはな
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