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小春日や障子に人の影も無く
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十一月二日、明治座の初日、わが作『小栗栖《おぐるす》の長兵衛』を上場するに付、午頃より見物にゆく。英一世にあらば、僕も立見に行こうなどいうならんかと思いやれば、門を出でんとしてまた俄に涙を催す。
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顔見世に又出して見る死絵かな
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五日、英一の四七日、午後よりかさねて青山にまいる。哀慕の情いよいよ切なり。
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わが涙凝つて流れず塚の霜
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その帰途、青山通りの造花屋にて白菊一枝を買い来りて仏前にささぐ。まことの花にては、その散り際にまたもや亡き人の死を思い出ずるを恐れてなり。
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散るを忌みて造花の菊を供へけり
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大阪の大西一外君と尾張の長谷川水陰君より遠く追悼の句を寄せらる。
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行秋やそのまぼろしの絵を思ふ 一外
秋風や樹下に冷たき石一つ 同
虫は草に秋のゆくへをすだく哉 水陰
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底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年10月16日第1刷発行
2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「十番随筆」新作社
1924(大正13)年4月初版発行
初出:「木太刀」
1920(大正9)年12月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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