ち果るを悔みながらに世を終つた。その腹を分けた姉妹、おなじ胤とはいひながら、姉は母の血をうけて公家|氣質《かたぎ》、妹は父の血をひいて職人氣質、子の心がちがへば親の愛も違うて、母は姉|贔屓《びいき》、父は妹贔屓。思ひ/\に子どもの贔屓爭ひから、埓もない女夫喧嘩などしたこともあつたよ。はゝゝゝゝゝ。
春彦 さう承はれば桂どのが、日ごろ職人をいやしみ嫌ひ、世にきこえたる殿上人か弓取ならでは、夫に持たぬと誇らるゝも、母御の血筋をつたへし爲、血は爭はれぬものでござりまするな。
夜叉王 ぢやによつて、あれが何を云はうとも、滅多に腹は立てまいぞ。人を人とも思はず、氣位高う生れたは、母の子なれば是非がないのぢや。
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(暮の鐘きこゆ。奧より楓は燈臺を持ちて出づ。)
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春彦 おゝ、取紛れて忘れてゐた。これから大仁《おほひと》の町まで行つて、このあひだ誂へて置いた鑿《のみ》と小刀《さすが》をうけ取つて來ねばなるまいか。
かへで けふはもう暮れました。いつそ明日にしなされては……。
春彦 いや、いや、職人には大事の道
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