は髪をふりかけ、直垂《ひたたれ》を着て長巻を持ち、手負《てお》いの体にて走り出で、門口に来たりて倒る。)
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春彦 や、誰やら表に……。
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(夫婦は走り寄りて扶《たす》け起し、庭さきに伴い入るれば、桂はまた倒れる。)
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春彦 これ、傷は浅うござりまするぞ。心を確かに持たせられい。
かつら (息もたゆげに)おお妹……。春彦どの……。父様はどこにじゃ。
夜叉王 や、なんと……。
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(夜叉王は怪しみて立ちよる。桂は顔をあげる。みなみな驚く。)
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春彦 や、侍衆《さむらいしゅう》とおもいのほか……。
夜叉王 おお、娘か。
かえで 姉さまか。
春彦 して、この体《てい》は……。
かつら 上様お風呂を召さるる折から、鎌倉勢が不意の夜討ち……。味方は小人数、必死にたたかう。女でこそあれこの桂も、御奉公はじめの御奉公納めに、この面《おもて》をつけてお身が
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