[#ここから2字下げ]
伊豆の国|狩野《かの》の庄、修禅寺村(今の修善寺)桂川のほとり、夜叉王の住家。
藁葺《わらぶ》きの古びたる二重家体。破れたる壁に舞楽の面などをかけ、正面に紺暖簾《こんのれん》の出入口あり。下手に炉を切りて、素焼の土瓶《どびん》などかけたり。庭の入口は竹にて編みたる門、外には柳の大樹。そのうしろは畑を隔てて、塔の峰つづきの山または丘などみゆ。元久元年七月十八日。
(二重の上手につづける一間の家体は細工場《さいくば》にて、三方に古りたる蒲簾《がますだれ》をおろせり。庭さきには秋草の花咲きたる垣《かき》に沿うて荒むしろを敷き、姉娘桂、二十歳。妹娘楓、十八歳。相対して紙砧《かみぎぬた》を擣《う》っている。)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
かつら (やがて砧の手をやめる)一※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《いっとき》あまりも擣ちつづけたので、肩も腕も痺《しび》るるような。もうよいほどにして止《や》みょうでないか。
かえで とは言うものの、きのうまでは盆休みであったほどに、きょうからは精出して働こうではござんせぬか。
前へ
次へ
全35ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング