見あやまりか。あるものか、ないものか。もう一度確かめて来なければ、どうしても気が済まない。貴公、この体では一緒に出られないか。」
「からだは痛む、熱は出る。しょせん今夜は一緒に行かれない。」と、大原は断った。
「では、おれひとりで行って来る。」
「どうしても今夜行くのか。」
「むむ、どうしても行く。」
三上は強情に出て行った。
その夜半《よなか》から大原の熱がいよいよ高くなって、ときどきに譫言《うわごと》をいうようにもなったので、家内の者も捨て置かれないので医者を呼んで来た。病人は熱の高いばかりでなく、紅とむらさきとの腫れあがった胸と脾腹が火傷《やけど》をしたように痛んで苦しんだ。それから三日ほどを夢うつつに暮らしているうちに、幸いにも熱もだんだんに下がって来て、からだの痛みも少し薄らいだ。五、六日の後にはようやく正気にかえって、寝床の上で粥《かゆ》ぐらいをすすれるようになった。
家内のものは病人に秘していたが、大原はおいおい快方にむかうにつれて、かの鐘ヶ淵の水中に意外の椿事が出来《しゅったい》していたことを洩れ聞いた。三上はその夜帰って来ないので、家内の者も案じていると、あくる
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