トへつかみ込んで来たのであるから、なかには書き捨ての反古《ほご》同様なものもある。その反古も今のわたしにはまた捨て難い形見のようにも思われるので、何でもかまわずに掻《か》きあつめることにした。
こうなると、急に気ぜわしくなって、すぐにその整理に取りかかると、冬の日は短い。おまけに午後には二、三人の来客があったので、一向に仕事は捗取《はかど》らず、どうにかこうにか片附いたのは夜の九時頃である。それでも門前には往来の足音が忙がしそうに聞える。北の窓をあけて見ると、大通りの空は灯のひかりで一面に明るい。明治座は今夜も夜業をしているのであろうなどとも思った。
さて纏まったこの雑文集の名をなんといっていいか判らない。今の仮住居の地名をそのままに、仮に『十番随筆』ということにしておいた。これもまた記念の意味に外ならない。[#地から1字上げ](十二月二十五日)
底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年10月16日第1刷発行
2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「思ひ出草」相模書房
1937(昭和12)年10月初版発行
初出:「思ひ出草」相模書房
1937(昭和12)年10月初版発行
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月29日作成
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