昼席などへ詰めかけている連中は、よっぽどの閑人《ひまじん》か怠け者か、雨にふられて仕事にも出られないという人か、まあそんな手合《てあい》が七分でした。
わたくしなどもそのお仲間で、特別に講釈が好きというわけでもないのですが、前に云ったような一件で、家《うち》にいてもくさ/\[#「くさ/\」に傍点]する、さりとて的《あて》なしに往来をぶら/\してもいられないと云うようなことで、半分は昼寝をするような積りで毎日出かけていたのでした。それでも半月以上もつゞけて通っているうちに、幾人も顔なじみが出来て、家にいるよりは面白いということになりました。昼席には定連が多いので、些《ちっ》とつゞけて通っていると、自然と懇意の人が殖えて来ます。その懇意のなかに一人のお武家がありました。
お武家は三十二三のお国風の人で、袴を穿いていませんが、いつも行儀よく薄羽織をきていました。勤番の人でもないらしい。おそらく浪人かと思っていましたが、この人もよほど閑《ひま》な体だとみえて、大抵毎日のように詰めかけている。しかもわたくしの隣に坐っていることも屡※[#二の字点、1−2−22]あるので、自然特別に心安くなりま
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