うな櫛が幾枚も落ちていて、何かのはずみでびく[#「びく」に傍点]のなかに紛れ込んだのかも知れないと思ったので、阿部さんは別にくわしいことも云いませんでした。
「そんなものが何うして這入ったのかな。掃溜へでも持って行って捨てゝしまえ。」
「はい。」
とは云ったが、お幾は蝋燭のあかりでその櫛をながめていました。そうして、なんと思ったか、これを自分にくれと云いました。
「まだ新しいのですから、捨てゝしまうのは勿体のうございます。」
櫛を拾うのは苦を拾うとか云って、むかしの人は嫌ったものでした。お幾はそんなことに頓着しないとみえて、自分が貰いたいという。阿部さんは別に気にも止めないで、どうでも勝手にするがいゝと云うことになりました。きょうは獲物が多かったので、盥のなかには鮒や鯰やうなぎが一杯になっている。そのなかには可成りの目方のありそうな鰻もまじっているので、阿部さんもすこし嬉しいような心持で、その二三匹をつかんで引きあげて見ているうちに、なんだかちくり[#「ちくり」に傍点]と感じたようでしたが、それなりに手を洗って居間へ這入りました。夕飯の支度は出来ているので、お幾はすぐに膳ごしらえを
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