ともありましたが、姉は生きている。年季が明ければ姉は吉原から帰ってくる。それを楽みに、久松はさびしいながらも矢はり生きていました。
 そのうちに、又こんなことが久松の耳に這入りました。初めておふくろの病気をみていた小池という医者が、途中で取換えられたのを面白く思っていなかったのでしょう、それに同商売|忌敵《いみがたき》というような意味もまじっていたのでしょう。その後近所の人達にむかって、あの病人に人参をのませて何になる。いくら人参だと云っても万病に効のあるというものではない。利かない薬をあてがうのは、見す/\病家に無駄な金を使わせるようなものだ。高価な薬をあたえれば、医者のふところは膨らむが、病家の身代は痩せる。医は仁術で、金儲け一点張りではいけないなどと云う。それが自然に久松にもきこえましたから、いよ/\心持を悪くしました。それでは桂斎の医者坊主め、みす/\利かないのを知っていながら、金儲けのために高い人参を売り付けたのかも知れないという疑いも起ってくる。桂斎先生は決してそんな人物ではないのですが、ふだんから怨んでいるところへ前のような噂が耳にひゞくので、年の行かない久松としては、そ
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