らしい眼鼻立で、みがき上げれば相当に光りそうな娘なので、自分も自然そんな気になったのかも知れません。それでも迂濶にそんなことは出来ませんから、念のために医者の家へ行って、おふくろの命は屹《きっ》と人参で取留められるでしょうかと聞きますと、十に九つまでは請合うと桂斎先生が答えたそうです。おつねは喜んで帰って来て、弟にその話をすると、久松も喜んだり嘆いたりで、しばらくは思案に迷ったのですが、姉の決心が固いのと、それより外には人参代を調達する智慧も工夫もないのとで、これもとう/\思い切って、姉に身売をさせることになってしまいました。
 おつねは長屋の人にたのんで、山谷《さんや》あたりにいる女衒《ぜげん》に話して貰って、よし原の女郎屋へ年季一杯五十両に売られることになりました。家の名は知りませんが、大町小店《だいちょうこみせ》で相当に流行る店だったそうです。式《かた》のごとくに女衒の判代や身付《みづき》の代を差引かれましたが、残った金を医者のところへ持って行って、宜しくおねがい申しますと云うと、桂斎先生は心得て、そのうちから八両とかを受取って、すぐに人参を買って病人に飲ませてくれたが、おふくろ
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