、廓内の勝手はよく心得ています。たゞ困ったことには、この人も雷嫌いで、稲妻がぴかりと光ると、あわてゝ眼をつぶるという質ですから、雷見舞のお使にはいつも相役の村上という男をたのんでいたのですが、きょうは生憎にその村上が下屋敷の方へ行って、屋敷に居あわせない。今日とちがいますから、電話をかけて急に呼び戻すというわけには行かないので、よんどころなく自分が引受けて出ることになりました。大次郎も侍ですから、雷が怖いと云って役目を辞退することは出来ません。風が吹く、雨がふる、雹が降る、雷が鳴る、実にさん/″\な天気の真最中に、大次郎は駕籠でのり出しました。本人に取っては、羅生門に向う渡辺綱よりも大役でした。
 屋敷を出たのは、夕七つ(午後四時)少し前で、雨風はまだやまない。とき/″\に大きい稲妻が飛んで、大地もゆれるような雷がなりはためく。駕籠のなかにいる大次郎はもう生きている心地もないくらいで、眼をふさぎ、耳をふさいで、おそらく口のうちでお念仏でも唱えていたことでしょう。本人の雷ぎらいと云うことは、屋敷でも大抵知っていたでしょうが、場所が場所だけに無暗の者を遣るわけには行かなかったのかも知れませ
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