たしのそばには老女が立っていた。老女はもう六十を越えているらしいが、あたまには小さい丸髷をのせて、身なりも貧しくない、色のすぐれて白い、上品な婦人であった。かれはわたしと肩をこすり合うようにして立っているので、なんとも無しに一種の挨拶をした。
「どうも悪いお天気でございますね。」
「そうです。急にふり出して困ります。」と、わたしも云った。
「きょう一日はどうにか持つだろうと思っていましたのに……。」
 こんなことを云っているうちにも、雷《らい》はかなりに強く鳴って通った。その一つは近所へ落ちたらしかった。老女は白い顔を真蒼にそめ換えて、殆どわたしのからだへ倒れかゝるように倚《よ》りかゝって眼をとじていた。雷の嫌いな女、それはめずらしくもないので、わたしはたゞ気の毒に思ったばかりであった。実はわたし自身もあまり雷は好きでないので、いゝ加減に通り過ぎてくれゝばいゝと内心ひそかに祈っていると、雨は幸いに三十分を過ぎないうちに小降りになって、雷の音もだん/\に東の空へ遠ざかったので、気の早い人達はそろ/\動きはじめた。わたしもやがて空をみながら歩き出すと、老女もつゞいて出て来た。かれも小さい洋
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