、貧乏旗本と軽しめられても武士の家ということを非常の誇りとしている人物。したがって平生から町人どもを眼下に見下している。その息子が町人の子と喧嘩をして、師匠が町人の方の贔屓をして、わが子にたんぽ[#「たんぽ」に傍点]槍の仕置を加えたと云うことを知ると、どうも面白くない。おまけに大塚が色々の尾鰭をつけて、そばから煽るようなことを云いましたから、今井はいよ/\面白くない。しかし流石に大塚とは違いますから、子どもの喧嘩に親が出て、自分がむやみに市川さんの屋敷へ掛合いにゆくようなことはしませんでした。
「幾之進殿の仕付方、いさゝか残念に存ずる廉がないでもござらぬが、一旦その世話をたのんだ以上、兎やこう申しても致方があるまい。」
 今井は穏かに斯う云って大塚を帰しました。しかし伜の健次郎をよび付けて、きょうから市川の屋敷へは稽古にゆくなと云い渡しました。大塚のせがれは病中であるから、無論に行きません。これで武家の弟子がふたり減ったわけです。今井を煽動しても余り手|堪《ごた》えがないので、大塚は更に自分の組内をかけまわって、市川の屋敷では町家の子供ばかりを大切にして、武家の子どもを疎略にするのは怪
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