正月、彼の伏見鳥羽の戦いで討死したと云うことです。
[#改段]

旗本の師匠

       一

 あるときに三浦老人がこんな話をした。
「いつぞや『置いてけ堀』や『梅暦』のお話をした時に、御家人たちが色々の内職をするといいましたが、その節も申した通り、同じ内職でも刀を磨《と》いだり、魚を釣ったりするのは、世間体のいゝ方でした。それから、髪を結うのもいゝことになっていました。陣中に髪結いはいないから、どうしてもお互いに髪を結い合うより外はない。それですから、武士が他人の髪を結っても差支えないことになっている。勿論、女や町人の頭をいじるのはいけない。更に上等になると、剣術柔術の武芸や手習学問を教える。これも一種の内職のようなものですが、こうなると立派な表芸で、世間の評判も好し、上のおぼえもめでたいのですから、一挙両得ということにもなります。」
「やはり月謝を取るのですか。」と、わたしは訊いた。
「所詮は内職ですから月謝を取りますよ。」と、老人は答えた。
「小身の御家人たちは内職ですが、御家人も上等の部に属する人や、または旗本衆になると、大抵は無月謝です。旗本の屋敷で月謝を取ったのは無い
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