しや賊でも這入ったのかと、すぐに蚊帳をくゞって出て、長押《なげし》にかけてある手槍の鞘を払って、台所の方へ出てみると、一つの黒い影が今や雨戸をあけて出ようとするところでした。生憎に今夜は暗い晩でその姿もよくは判らないが、兎もかくも台所の広い土間から表へ出てゆく影だけは見えたので、高松さんはうしろから声をかけました。
「誰だ。」
 相手はなんにも返事もしないで、土間に積んである薪の一つを把《と》って、高松さんを目がけて叩き付けると、暗いので避け損じて、高松さんはその薪ざっぽうで左の腕を強く打たれました。名をきいても返事をしない、しかも手向いをする以上は、もう容赦はありません。高松さんは土間に飛び降りて追いかけると、相手は素疾く表へぬけて出る。なにしろ暗いので、もし取逃すといけないと思ったので、高松さんはその跫音をたよりに、持っている槍を投げ付けると、さすがは多年の手練で、その投槍に手堪えがあったと思うと、相手は悲鳴をあげて倒れました。
 この騒ぎに家中の者が起きてみると、ひとりの女が投槍に縫われて倒れていました。背から胸を貫かれたのですから、勿論即死です。それはお近さんで、着換え二三枚を
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