に庭へ出て、あたゝかい春風に吹かれていると、却って頭が重くなるとか云って、お嬢様はめったに外へも出ない。たゞ垂れ籠めて鬱陶しそうに春の日永を暮している。殊に花時の癖で、今年の春も雨が多い。そばに附いている者までが自然に気が滅入って、これもお嬢さま同様にぶら/\病にでもなりそうになって来ました。医者は三日目に一度ずつ見まわりに来てくれるが、お嬢さまは何うもはっきりとしない。するとある日のことでした。きょうも朝から絹糸のような春雨が音も無しにしと[#「しと」に傍点]/\と降っている。お嬢さまは相変らず鬱陶しそうに黙っている。お近さんをはじめ、そばに控えている二三人の腰元もたゞぼんやりと黙っていました。
こんなときには琴を弾くとか、歌でも作るとか、なにか相当の日ぐらしもある筈ですが、屋敷の家風が例の通りですから、そんな方のことは誰もみな不得手です。屋敷奉公のものは世間を知らないから世間話の種もすくない。勿論、こゝでは芝居の噂などが出そうもない。たゞ詰らなそうに睨み合っているところへ、お仙という女中がお茶を運んで来ました。お仙は始終この下屋敷の方に詰めているのでした。
「どうも毎日降りまして
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