交代もしなければなりませんから、内証はなか/\苦しい。したがって、一万石や二万石ぐらいの木葉大名よりも、四千石五千石の旗本の方がその生活は却って豊なくらいでした。
三島の屋敷も評判の物堅い家風でした。高松さんもそれを知って自分の娘を奉公に出したのですが、まったく奥も表も行儀が正しく、武道の吟味が強い。お近さんはお嬢さまのお相手をして薙刀の稽古を励む。ほかの腰元たちも一緒になって薙刀や竹刀《しない》撃の稽古をする。まるで鏡山の芝居を観るようです。奥さまは勿論ですが、殿さまも時々に奥へお入りになって、女どもの試合を御覧になるのですから、女たちも一層熱心に稽古をする。女でさえも其通りですから、まして男でこの屋敷に奉公するほどのものは、足軽仲間にいたるまで竹刀の持ち様は確かに心得ているというわけで、まことに武張った屋敷でした。
「武家に奉公するものは武芸を怠ってはならぬ。まして今の時世であるから、なんどき何事が起らないとも限らぬ。男も女もその用心を忘れまいぞ。」
これが殿さまや奥さまの意見で、屋敷のもの一統へ常日頃から厳重に触れ渡されているのです。お近さんという娘は子供のときからお父《とっ
前へ
次へ
全239ページ中127ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング