霊のごとく、たとえん方《かた》もなく物凄し。宿に帰れば宇都宮の田島さんより郵便来たり、今夜からあしたにかけて泊りがけで遊びに来いという。すぐに支度して行く。
田島さんというのは森君の友人で、宇都宮で新聞記者をしている人であった。森君も九日の午後の汽車で宇都宮に着いて、公園に近い田島さんの家に一泊したことは日記に詳しく書いてあるが、この物語には不必要であるからここに紹介しない。とにかく森君は翌十日も田島さんの家で暮らした。その晩帰るつもりであったところを、無理にひきとめられてもうひと晩泊った。森君が田島さん夫婦に歓待されたことは日記を見てもよく判る。こうして彼は八月十一日を宇都宮で迎えた。彼の日記のおそろしい記事はこの日から始まるのである。
二
十一日、陰《くもり》。ゆうべは蚊帳《かや》のなかで碁を囲んで夜ふかしをした為に、田島の奥さんに起されたのは午前十時、田島さんは予の寝ているうちに出社したという。きまりが悪いので早々に飛び起きて顔を洗い、あさ飯の御馳走になっているところへ、田島さんはあわただしく帰り来たり、これから日光へ出張しなければならない、丁度いいから一緒に
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