ことごとく青くなった。こうして一時(今の二時間)あまりもそのままにしておかれるうちに、かれは眠ったようにうっとりとなってしまったので、その日の拷問はそれで終った。それは四月九日のことで、つづいて十一日の第五回の拷問が行われた。それも笞打と石抱きとで、石はやはり八枚であった。石がだんだんに積まれて八枚になった時に、かれは気をうしなったようにみえたので、役人は注意してその顔色をうかがっていると、彼は眼を細くあけて役人の方をそっと見た。かれは仮死を粧《よそお》って拷問を中止させようとする横着物であることを役人たちはちらと看破して、決してその拷問をゆるめはしなかった。彼は二時あまりも石を抱かされていたが、遂に恐れ入らなかった。
 つづいて十三日に第六回の拷問を行われた。もうこうなると、役人と罪人の根くらべである。この時も笞打と石八枚で、吉五郎はやはり強情我慢を張り通した。九日から十三日までの五日間につづけて三回の拷問をうけながら、彼はちっとも屈しないのは、もしや口中に何かの薬を含んでいるのではないかと役人はその口を無理に開かせて、上下の歯のあいだを一々にあらためた。牢内の習慣で、拷問をうける罪
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