年の申口をかえて、更に再吟味をねがい出た。かれは去年、小間物屋の手代と突き合せ吟味のときに、一旦屈伏したにもかかわらず、更にその申口をかえて拷問をうけたのである。そうして、第五回の拷問前に再び屈伏したにもかかわらず、またもやその申口を変えようとするのである。しかも本人が押して再吟味を願い立てる以上、無理押し付けにそれを処分することも出来ないので、奉行所ではあくまでも強情な彼のために、かさねて裁判を開くことを余儀なくされたが、そういう厄介な罪人に対しては係り役人らの憐愍も同情もなかった。吉五郎は吟味の役人に対して、先度の御吟味があまりに手痛いので自分は心にもない申立をいたしたのであるが、小間物屋の一条は一切おぼえのないことで、それは同類の勝五郎の仕業に相違ないと訴えたが、役人たちは殆《ほとん》ど取合わなかった。
 かれはすぐに第二回の拷問を繰返すことになって、笞打のほかに石八枚を抱かされた。強情に彼はこれまでの経験があるので、七枚までは眼をとじて堪えていた。大抵のものは五枚以上積めば気をうしなうのである。七枚のうえに更に一枚を積まれたときに、吉五郎もさすがに顔の色が変って来て、総身の肌が
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