箱根を越すと静かになるそうです。
昔は狐使いなどといって、他に嫌がられながらも一方にはまた恐れられ、種々の祈祷料などをもらっていたのですが、今日では狐を使う行者などは跡を絶ちました。
この狐憑は、狐が落ちさえすればけろりと治ってしまいますが、治らずに死ぬ者もありました。
河童《かっぱ》は筑後の柳川が本場だとか聞いていますが、江戸でも盛んにその名を拡めています。これはかわうそと亀とを合併して河童といっていたらしく、川の中で足などに搦《から》みつくのは大抵は亀だそうです。
この河童というものが、江戸付近の川筋にはよく出たものです。どういう訳か、葛西《かさい》の源兵衛(源兵衛堀―いまの北|十間《じっけん》川のこと)が名所になっています。
徳川の家来に福島|何某《なにがし》という武士がありました。ある雨の夜でしたが、虎の門の濠端《ほりばた》を歩いていました。この濠のところを俗にどんどんといって、溜池の水がどんどんと濠に落ちる落口になっていたのです。
その前を一人の小僧が傘もささずに、びしょびしょと雨に濡れながら裾を引き摺って歩いているので、つい見かねて「おい、尻を端折《はしょ》った
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