と眺めていました。ハンプトン・コートには楡の立派な木もありますが、到底この栗の林には及びませんでした。
あくる日、近所の理髪店へ行って、きのうはキウ・ガーデンからハンプトン・コートを廻って来たという話をすると、亭主はあの立派なチェストナットを見て来たかと云いました。ここらでもその栗の木は名物になっているとみえます。その以来、わたしも栗の木に少からぬ注意を払うようになって、公園へ行っても、路ばたを歩いても、色々の木立のなかで先ず栗の木に眼をつけるようになりました。
それから一週間ほどたって、私は例のストラッドフォード・オン・アヴォンに沙翁の故郷をたずねることになりました。そうして、ここでアーヴィングがスケッチブックの一節を書いたとか伝えられているレッド・ホース・ホテルと云う宿屋に泊まりました。日のくれる頃、案内者のM君O君と一所にアヴォンの河のほとりを散歩すると、日本の卯の花に似たようなメー・トリーの白い花がそこらの田舎家の垣からこぼれ出して、うす明るいトワイライトの下にむら消えの雪を浮かばせているのも、まことに初夏のたそがれらしい静寂な気分を誘い出されましたが、更にわたしの眼を惹い
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