も急に夏らしくなって、日曜日の新聞を見ると、ピカデリー・サアカスにゆらめく青いパラソルの影、チャーリング・クロスに光る白い麦藁帽の色、ロンドンももう夏のシーズンに入ったと云うような記事がみえました。その朝に高田商会のT君がわざわざ誘いに来てくれて、きょうはキウ・ガーデンへ案内してやろうと云う。早速に支度をして、ベーカーストリートの停車場から運ばれてゆくと、ガーデンの門前にゆき着いて、先ずわたしの眼をひいたのは、彼のホース・チェストナットの並木でした。日本の栗の木のいたずらにひょろひょろしているのとは違って、こんもりと生い茂った木振と云い、葉の色といい、それが五月の明るい日の光にかがやいて、真昼の風に揺らめいているのは、いかにも絵にでもありそうな姿で、私はしばらく立停まってうっかりと眺めていました。
その日は帰りにハンプトン・コートへも案内されました。コートに接続して、ブッシー・パークと云うのがあります。この公園で更に驚かされたのは、何百年を経たかと思われるような栗の大木が大きな輪を作って列んでいることでした。見れば見るほど立派なもので、私はその青い下蔭に小さくたたずんで、再びうっかり
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