達と心安くなろうという目的もまじっていたらしく、彼はすぐに隣り座敷へ顔を出して、正直にその事情をうち明けて、自分たちの不注意を謝まった。その事情が判って、女達もみな笑い出した。
それが縁になって、臆面のない本多はとなりの女連れの身許や姓名などをだんだんに聞き出した。かれらは古屋為子、鮎沢元子、臼井柳子、児島亀江という東京の某女学校の生徒で、暑中休暇を利用してこの温泉場に来て、四人が六畳と四畳半の二間を借りて殆んど自炊同様の生活をしているのであった。
「あなた方は当分御滞在でございますか。」と、その中で年長《としかさ》らしい為子が訊いた。
「さあ。まだどうなるか判りません。」と、本多は答えた。「しかし今頃はどこへ行っても混雑するでしょうから、まあ、ここに落ち着いていようかとも思っています。われわれはどの道、一週間ぐらいしか遊んでいることは出来ないんですから。」
「さようでございますか。」と、為子はほかの三人と顔を見あわせながら言った。「わたくし共も二週間ほど前からここへ来ているのでございますが、御覧の通り、この座敷はなんだか不用心でして、夜なんかは怖いようでございます。」
いくら第二
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