たものの、あくる日も床を離れないで、医師の治療を受けていた。遠泉君の一行も案外の椿事におどろかされて、となり座敷の女たちのために出来るだけの手伝いをしてやった。田宮は気分が悪いといって、朝飯も碌々に食わなかった。
「あの、まことに恐れ入りますが、どなたかちょっと帳場まで……。」と、女中がこっちの座敷へよびに来た。
遠泉君はすぐに起って、旅館の入口へ出てゆくと、駐在所の巡査がそこに腰をかけて番頭と何か話していた。
「なにか御用ですか。」
「いや、早速ですが、少しあなた方におたずね申したいことがあります。」と、巡査は声を低めた。
「御承知の通り、あなた方の隣り座敷の女学生が湯風呂のなかで変死した事件ですが、どうしてあの女学生が突然に湯の中へ沈んでしまったのか、医者にもその理由が判らないというんです。どうも急病でもないらしい。といって、滑って転ぶというのも少しおかしい。そこで、あなたのお考えはどうでしょうか。あの児島亀江という女学生は、同宿の他の三人と折合いの悪かったような形跡は見えなかったでしょうか。それとも何かほかにお心当たりのことはなかったでしょうか。」
四人のうちでは一番の年長《
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