飛び込んで隅々を探してみると、若い女ふたりが湯の底に沈んでいるのを発見した。女ふたりは確かに入浴していて、あたかもかの細君がはいって来た途端に、どうかしたはずみで湯の底に沈んだらしい。二つの首が突然に消え失せたように見えたのは、それがためであった。すぐに医師を呼んでいろいろと手当てを加えた結果、ひとりの女は幸いに息を吹き返したが、ひとりはどうしても生きなかった。
 生きた女は古屋為子であった。死んだ女は児島亀江であった。為子の話によると、ふたりが湯風呂の中にゆっくり浸っていると、なんだか薄ら眠いような心持になった。と思う時に、入口の戸をあけて誰かはいって来たらしいので、湯気の中から顔をあげてその人を窺おうとする一刹那、自分と列んでいる亀江が突然に湯の底へ沈んでしまった。あっ[#「あっ」に傍点]と思うと、自分も何物にか曳かれたように、同じくずるずると沈んで行った。それから後は勿論なんにも知らないというのであった。

          三

 亀江の検死は済んで、死体は連れの三人に引き渡された。三人はすぐに東京へ電報を打って、その実家から引取り人の来るのを待っていた。為子は幸いに生き返っ
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