しろここで一週間を送ろうということになった。
「それがいい。どこへ行っても同じことだよ。」と、本多は真っ先にそれを主張した。
あくる朝、三人が海岸へ出ると、となりの四人連れもやはりそこらをあるいていて、一緒になって崖の上の或る社《やしろ》に参詣した。四人の女のうちでは、児島亀江というのが一番つつましやかで、顔容《かおかたち》もすぐれていた。三人の男とならんでゆく間も、彼女は殆んど一度も口を利かないのを、遠泉君たちはなんだか物足らないように思った。こっちの三人の中では、田宮が一番おとなしかった。
昼のうちは別に何事もなかった。ただ午後になって、本多が果物をたくさんに注文して、遠慮している隣りの四人を無理に自分の座敷へよび込んで、その果物をかれらに馳走して、何かつまらない冗談話などをしたに過ぎなかった。日が暮れてから男の三人は再び散歩に出たが、女達はもう出て来なかった。
「田宮君、君はけしからんよ。」と、本多は途中でだしぬけに言い出した。「君はあの児島亀江という女と何か黙契《もっけい》があるらしいぞ。」
「児島というのはあの中で一番の美人だろう。」と、遠泉君は言った。「あれが田宮君と何か怪しい形跡があるのか。ゆうべの今日じゃあ、あんまり早いじゃないか。」
「馬鹿を言いたまえ。」
田宮はただ苦笑をしていたが、やがて又小声で言い出した。
「どうもあの女はおかしい。僕には判らないことがある。」
「何が判らない。」と、本多は潮の光りで彼の白い横顔をのぞきながら訊いた。
「何がって……。どうも判らない。」
田宮はくり返して言った。
二
日が暮れてまだ間もないので、方々の旅館の客が涼みに出て来て、海岸もひとしきり賑わっていた。その混雑の中をぬけて、三人がけさ参詣した古社の前に登りついた時、田宮はあとさきを見かえりながら話し出した。
「僕はいったい臆病な人間だが、ゆうべは実におそろしかったよ。君たちにはまだ話さなかったが、僕はゆうべの夜半《よなか》、かれこれもう二時ごろだったろう。なんだか忌《いや》な夢を見て、眼が醒めると汗をびっしょりかいている。あんまり心持が悪いからひと風呂はいって来ようと思って、そっと蚊帳を這い出して風呂場へ行った。君たちも知っている通り、ここらは温泉の量が豊富だとみえて、風呂場はなかなか大きい。入口の戸をあけてはいると、中には
前へ
次へ
全13ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング