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權三 (かんがへる。)いくら大岡樣がえらいと云つても、まさか死んだ者を生かして返《けえ》しやあしめえ。
助十 死ぬもの貧乏とはよく云つたものだな。
六郎 ところが、生かして歸してくれたよ。
一同 え。
六郎 大岡樣は初めから見透しで、どうも彦兵衞さんは本當の罪人らしくない。これは何かの間違ひであらうといふので、表向《おもてむき》は牢中病死と披露《ひろう》して、實は生かして置いて下すつたのだ。
おかん ぢやあ、彦兵衞さんは生きてゐるんですかえ。
六郎 むゝ、むゝ、生きてゐるよ。
權三 彦兵衞さんは生きてゐる……どこまで行つても、狐に化かされてゐるやうだぜ。
助十 なに、化かされてゐることがあるものか。おれにはちやんと判ってゐらあ。なるほど大岡樣はえらいものだな。
助八 名奉行とあがめ奉つるも嘘ぢやあねえ。
與助 彦兵衞さんが生き返つてくれりやあ、おれの猿なんぞは死んでもいゝ。
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(下のかたより駕籠かき二人が附添ひ、彦三郎は父彦兵衞の手を取りて介抱しながら出づ。)
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