助十と助八は鉢卷をしめ直して、急いで上のかたへ行く。)
おかん ほんたうに憎らしい奴だねえ。あたしももう行くまいかしら。
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權三 かまふものか。打つちやつて置け。(團扇《うちは》を取る。)このごろは晝間でも藪つ蚊が出て來やあがる。
おかん 暑い暑いと云つても、もう秋だとみえて、縞《しま》のお袴《はかま》をはいた蚊がだん/\に大きくなつて來たねえ。
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(おかんも澁團扇をとつて權三を煽《あふ》いでやる。)
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權三 おや、おや、手前けふは忌《いや》に亭主孝行だな。今の話でむかしの事を思ひ出したか。
おかん なに、あいつ等へ面當《つらあ》てさ。
權三 面當てでなけりやあ大事にしてくれねえのか。心ぼそいことだな。
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(上のかたにて又もや大勢の聲きこゆ。)
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大勢 引いた、引いた。エンヤラサア。

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