雲哲 なるほど猿のかたき討か。
願哲 これも長屋の附合だ。
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(與助は竹の鞭を把り、雲哲等も一緒に勘太郎をなぐる。)
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勘太郎 さあ、どいつも皆んな下手人だぞ。殺すなら殺せ。立派に殺してくれ。
權三 こいつを歸すと面倒だ。ふん縛つてしまへ。
助十 八。このあひだの繩を持つて來い。
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(助八は奧へかけ込んで麻繩を持つて來る。)
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おかん 縛つてもいゝのかえ。
助八 よくつても惡くつても構ふものか。毒食はば皿までだ。
權三 さあ、早く縛れ、縛れ。
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(助八は勘太郎を縛る。)
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雲哲 どうも仕置《しおき》が暴くなつて來た。縛つてしまふのはちつとひどいな。
願哲 うか/\してゐて、こつちまでが係り合ひになつてはならない。長屋の附合も先づこのくらゐにして置かうか。
雲哲 これから先、何事が起つても、おれたちは知らないぞ、知らないぞ。
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(雲哲、願哲は下のかたへ逃げ去る。)
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與助 かたき討が濟んだら、わたしもこゝらにゐない方がよささうだ。
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(與助も猿をかゝへて、おなじく路地の外へ逃げてゆきかけしが、又引返して來る。)
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與助 これ、お役人が來たやうだぞ。
權三 なに、お役人が來た。
助十 そいつはいけねえ。どうしよう。
助八 どうしよう。
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(三人はうろたへながら四邊《あたり》を見まはし、助十は駕籠に眼をつける。)
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助十 これだ、これだ。
權三 ちげえねえ、早くしろ、早くしろ。
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(三人は繩からげの勘太郎を引摺つて駕籠のなかへ
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