しめえ。
六郎 ぐづ/\云はずに、早く相棒を見つけて來いよ。おゝ、誰彼といふよりも、雲哲、おまへが片棒かついでやれ。
雲哲 大屋さんのお指圖だが、これは難儀だ。おれも弔《とむら》ひの差荷《さしにな》ひはかついだが、生きた人間を乘せたのはまだ一度も擔いだことがないので……。
助八 まあ、仕方がねえ、おれが先棒になつて遣るから、あとからそろ/\附いて來い。さあ、手をかせ。
雲哲 やれ、やれ。兎かく長屋に事なかれだ。
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(助八と雲哲は土間から駕籠を持ち出してくる。)
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彦三郎 いえ、それではあんまり恐れ入ります。
六郎 なに、遠慮はないから乘つておいでなさい。
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(六郎兵衞は彦三郎の手を取りて駕籠にのせる。助八と雲哲は身支度をする。おかんは奧に入る。上のかたより猿まはし與助がうろ/\出づ。)
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與助 大屋さん。井戸がへは何うしますね。
六郎 急に大事の用が出來て、おれは御番所《ごばんしよ》へ出なければならないから、井戸がへの方はまあ宜しく遣つてくれ。おゝ、さうだ。おまへにも用がある。願哲は權三の繩取りをして、おまへは助十の繩を取つて行け。
與助 (おどろいて。)え、どこへまゐります。
六郎 南の御奉行所へ行くのだ。
與助 え。(ふるへる。)
六郎 なにも怖がることはない。おれが一緒に附いて行くのだから安心しろ。
與助 はい、はい。
六郎 併し猿を背負つてゐては少し困るな。だれかに預けて行け。
與助 いえ、この猿めは迚《とて》もわたくしの傍を離れませんから、一緒に連れて行かして下さい。
六郎 では、まあ勝手にするがいゝや。(一同に。)さあ、めいめいの役割がきまつたら、日の暮れないうちに出かけようぜ。
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(願哲は權三の繩を取り、與助は助十の繩を取りて引立てる。助八と雲哲は駕籠を舁《か》き上げようとして、雲哲はよろける。)
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助八 おい、おい、しつかりしろよ。
雲哲 おれは素人《しらうと》だ。仕方がない。
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