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(彦三郎は無埋に振切つて行かうとするを、六郎兵衞は留める。おかんはうろ/\しながら權三を手招ぎし、なんとかしろと云ふ。權三ももう堪らなくなつて進み出で、彦三郎の前に立塞《たちふさ》がる。)
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權三 まあ、おまへさん。待ちなせえ。
彦三郎 えゝ、どなたも邪魔をして下さるな。
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(彦三郎は突きのけて行かうとするを、權三は抱きとめる。)
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權三 邪魔をするわけぢやあねえ。おれが好い智慧を貸してやるのだ。やい、やい、助十。見てゐることはねえ。一緒に留めてくれ、留めてくれ。
おかん (縁に出る。)助さんも早く何とかおしなねえ。
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(助十も決心して起つ。)
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助十 (彦三郎に。)まあ、待ちなせえ。待ちなせえ。まつたくおれ達が好い智慧を貸してやるのだ。まあ、まあ、落ち着いて云ふことを聞くがいゝぜ。
權三 まあ、おとなしくしろ、おとなしくしろ。
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(權三と助十は無理に彦三郎を元の縁さきに押戻す。)
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六郎 井戸がへで汗になつたところへ、また汗をかゝされた。やれ、やれ。(汗を拭く。)そこでお前達はほんたうに好い智慧があるのか。
權三 さう改まつて聞かれると少し困るが……。おい、助十。おめえから云へ。
助十 いや、おれはいけねえ。おれは不斷から口不調法だからな。
權三 うそをつけ。人一倍大きな聲で呶鳴りやあがる癖に……。
助十 えゝ、手前こそ矢鱈《やたら》に無駄口をきくぢやあねえか。
六郎 これ、これ、そんなことを云つてゐては果てしがない。おい、權三。先づおまへから口をきけ。
權三 どうしてもわつしが口切りかえ。やれ、やれ。
六郎 何がやれ/\だ。おれが名指しでお前に聞くのだから、さあ、はつきりと云へ。
權三 仕樣がねえな。(頭をおさへる。)ぢやあ、まあ聽いておくんなせえ。實はね、去年の十一月の末のことでごぜえました。(助
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