りました。すぐに召されまするか」
織部清治は来客の手前を憚って、主人の顔色をうかがいながらそっと訊くと、忠通はすぐに通せと言った。やがて清治に案内されて、藻は庭さきにはいって来た。
ここは北の対屋《たいのや》の東の庭であった。午《ひる》すぎの明るい日は建物の大きい影を斜めに地に落として、その影のとどかない築山のすそには薄紅い幾株かの楓《もみじ》が低く繁って、暮れゆく秋を春日絵《かすがえ》のようにいろどっていた。藻はその背景の前に小さくうずくまって、うやうやしく土に手をついた。
「いや、苦しゅうない。これへ召しのぼせて藁蓐《わらうだ》をあたえい」と、忠通はあごで招いた。
清治は心得て、藻を縁にのぼらせた。そうして藁の円座を敷かせようとしたが、藻は辞退して板縁の上に行儀よくかしこまった。
「予は忠通じゃ。そちは前《さき》の蔵人坂部庄司の娘、藻と申すか」と、忠通は向き直って声をかけた。
「仰せの通り、坂部行綱のむすめ藻、初めてお目見得つかまつりまする」
彼女は謹んで答えると、信西も軽く会釈した。
「わしは少納言信西じゃ」
「遠慮はない。おもてをあげて見せい」
関白に再び声をかけられ
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