のまわりに調伏の壇を築いて、かさねて降魔の祈祷を試むるであろう。鳥を逐わんとすればまずその巣を灼《や》くというのはこの事じゃ。今度こそは大事の祈祷であるぞ。ゆめゆめ油断すまいぞ」
 有明けのともしびに照らされた師匠の顔は、物凄いほどに神々《こうごう》しいものであった。昼夜を分かたぬ連日の祈祷に痩せ衰えた彼の顔も、今度は輝くばかりに光っていた。四人の弟子も感激して師匠の前を引き退がったが、泰親の居間には明るい灯があかつきまで消えなかった。
 弟子たちは自分の部屋へ戻ってうとうとしたかと思うと、忽ちに師匠の声がきこえた。
「もう夜が明けたぞ。泰忠は早く支度して宇治へまいれ。早う行け」
「心得ました」
 泰忠はすぐに跳ね起きて屋敷を出て行った。いつもならばこの使いは自分に言い付けられるものをと、千枝太郎は羨ましいような心持で門《かど》まで見送って出た。東がすこし白んだばかりで、深い霧の影が大地を埋めているなかを、泰忠が力強く踏みしめて歩んでいくのが、いかにも勇ましく頼もしく思われて、千枝太郎も一種の緊張した気分になった。
 この時代の人が京から宇治まで徒歩《かち》で往き戻りするのであるから、
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