ほどに精《え》り抜いた侍どもではなかった。不意にこの喧嘩を売り掛けられて、彼らはすこしく怯《ひる》んだ。
 それにつけても、当人の玉藻がなんと言い出すかと、敵も味方も眼をあつめてその顔色をうかがっていると、玉藻はやがてしずかに言った。
「ほほ、これは異《い》なことを承りまする。御代参とあれば関白家も同じこと、弟御《おとうとご》の左大臣どのから遠慮のお指図を受きょう筈はござりませぬ」
 彼女は供の侍を見かえって、一緒に来いと扇でまねいた。招かれて彼らはそのあとに続こうとするのを、遠光はあくまでもさえぎった。
「なり申さぬ。われわれここを固めている間は、ひと足も門内へは……」
「ならぬと言わるるか」
「くどいこと。なり申さぬ」
「どうでもならぬか」と、玉藻もすこし気色《けしき》ばんだ。
 遠光はもう返事もしないで、相手の瞳《ひとみ》を一心に睨んでいると、玉藻はなんと感じたか俄に扇でそのおもてを隠しながら高く笑った。彼女は眉をあげて山門の方をあざけるように見返りながら、再びしずしずと牛車の※[#「※」は「車へんに非」、187−7]《はこ》にはいって、そうして、牛車を戻せと低い声で命令すると、
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