、泰親は叔父夫婦にも子細をうちあけて、彼を自分の弟子として取り立ててみたいと言った。都はおろか、日本《にっぽん》じゅうに隠れのない、名家の弟子のかずに入ることは身のほまれであると、千枝松は涙をながして喜んだ。叔父たちにも異存はなかった。
禍いが却って福となった烏帽子折りの少年は、それから泰親の門に入って、天文を習った。卜占《うらない》を学んだ。さすがは泰親の眼識《めがね》ほどあって、年にも優《ま》して彼の上達は実に目ざましいもので、明けてようよう十九の彼は、ほかの故参の弟子どもを乗り越えて、やがては安倍晴明以来の秘法という悪魔|調伏《ちょうぶく》の祈りをも伝えらるるほどになった。彼は泰親が秘蔵弟子の一人であった。
それほどの事情を詳しく知らないまでも、むかしの千枝ま[#「ま」に傍点]が今は千枝太郎泰清と名乗っていることが、玉藻に取っては意外の新発見であるらしかった。彼女はこの昔の友に対して、過去の罪を悔むような打ちしおれた気色《けしき》をみせた。
「のう、千枝太郎どの。お前はさぞ昔の藻を憎い奴と思うでござろうのう。わたしもまだその頃は幼な心の失《う》せいで、お宮仕えの、御奉公のと唯
前へ
次へ
全285ページ中127ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング