《とと》さまにいつか見付けられて、このような穢《けが》れたものを家《うち》へ置いてはならぬ。もとのところへ戻して来いと叱られたが、あの森へは怖ろしゅうて二度とは行かれぬ。おまえに頼もうと思うても、あいにくにお前は見えぬ。よんどころなしにあの川べりへ持って行って普門品《ふもんぼん》を唱《とな》えて沈めて来た。となりの婆どのは丁度そこへ通りあわせて、わたしが髑髏を押し頂いているところを見たのであろう。訳を知らぬ人が見たら不思議に思うも無理はない。婆どのはお前をなぶろうとしたのではない。ほんのことを正直に話したのじゃ」
「そうかのう」
 千枝松もはじめてうなずいた。藻が薄暗い川べりに立って髑髏をかざしていた子細も、これで判った。陶器師の婆が根もないことを言い触らしたのでないという証拠もあがった。彼は一時の腹立ちまぎれに喧嘩を売って、人のよいじいさまの気を痛めたことを少し悔むようになってきた。
「それからきょうは関白殿の屋形へ召されて、御前《ごぜん》の首尾はどうであった」
「首尾は上々《じょうじょう》じゃ」と、藻は誇るように言った。「色紙やら短冊やらいろいろの引出物をくだされた。帰りも侍衆が送って来てくれたが、侍衆の話では、わたしをお屋形へ御奉公に召さりょうも知れぬと……」
「なんじゃ、御奉公に召さるると……。して、その時はどうするつもりじゃ」と、千枝松はあわただしく訊いた。
「どうするというて……。ありがたくお受けするまでじゃ。もしそうなれば思いも寄らぬ身の出世じゃと、父《とと》さまも喜んでいやしゃれた」
 秋の宵闇は二人を押し包んで、女の白い顔ももう見えなくなった。その暗い中から彼女の顔色を読もうとして、千枝松は梟《ふくろう》のように大きい眼をみはった。
「お受けする……。関白殿の屋形へまいるか。お宮仕えは一生の奉公と聞いておる。それほどで無うても、三年や五年でお暇《いとま》は下されまいに、お前はいつここへ戻って来るつもりじゃ」
「それはわたしにも判らぬ。三年か五年か、八年か十年か、一生か」と、藻は平気で答えた。
 それでは約束が違うと言いたいのを、千枝松はじっと噛み殺して、しばらく黙っていた。勿論、二人のあいだに表向きの約束はない。行く末はどうするということを、藻の口からあらわに言い出したこともない。父の行綱も娘をお前にやろうと言ったことはない。しょせんは言わず語らず
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