しの過失じゃ。お身を恐れたは猶更のあやまちじゃ。魔女でも鬼女でも畜生でも、なつかしいと思うたら疑わぬ筈、恋しいと思うたら恐れぬ筈。それを疑い、それを恐れて、仇に月日を過ごしたばかりか、お師匠さまに味方してお身をかたきと呪うたは、千枝太郎が一生のあやまちじゃ。この通りに詫びる。こらえてたもれ」
 彼は早く悪魔の味方にならなかったことを今更に悔やんだ。悪魔と恋して、悪魔の味方になって、悪魔と倶《とも》にほろびるのがむしろ自分の本望であったものをと、彼は膝に折り敷いた枯草を掻きむしって遣る瀬もない悔恨の涙にむせんだ。その熱い涙の玉の光るのを、玉藻はじっと眺めていたが、やがて優しい声で言った。
「お前はそれほどにわたしが恋しいか。人間を捨ててもわたしと一緒に棲みたいか」
「おお、一緒に棲むところあれば、魔道へでも地獄へでもきっとゆく」と、彼は堪えられない情熱に燃える眼を輝かして言った。
 玉藻は美しく笑った。彼女はしずかに扇をあげて、自分の前にひざまずいている男を招いた。

 ひとりの若い旅びとが殺生石を枕にして倒れているのを、幾日かの後に発見した者があった。その旅びとは微笑を含みながら平和の永い眠りに就いているらしかった。しかし怖ろしい墓場へ踏み込んで、その亡骸《なきがら》を取り片付ける者もなかったので、彼はそのままにいつまでも捨てて置かれた。そのうちに寒い冬が奥州の北から押し寄せて来て、那須野ケ原も一面の雪の底に埋められた。
 あくる年の春が来て、殺生石は雪の底から再びその奇怪な形をだんだんに現わしたが、旅びとの姿はもう見えなかった。彼は融《と》ける雪と共に消えてしまったのかもしれない。
 それから十年も経たないうちに、都には二度の大きい禍いが起こって、みやこは焚かれた。大勢の人は草を薙ぐように斬り殺された。保元《ほうげん》と平治《へいじ》の乱である。しかも古来の歴史家は、この両度の大乱の暗いかげに魔女の呪詛《のろい》の付きまつわっていることを見逃しているらしい。玉藻をほろぼした頼長は保元の乱の張本人となって、ぬしの知れない流れ矢に射られた。
 信西入道はあくまでも狡獪《こうかい》なる態度を取って、前度の乱にはつつがなく逃れたが、後の平治の乱には彼が正面の敵と目指された。彼は逃れない運命を観じて、みずから土の中に生き埋めとなったのを、再び敵に掘り出されて、その老いたる法
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