倦《う》んで来た。
 十月もやがて終わりに近い日である。
 都には今年の冬が俄に押し寄せたように、陰った底寒い日が幾日もつづいて、けさはめずらしく青々とした空をみせたかと思うと、どこからか忽ちにしぐれ雲を運び出して、大粒の霰《あられ》がはらはらと落ちて来た。那須の篠原に狩り暮らしている三浦、上総の籠手《こて》の上にも、こうした霰がたばしっているかと千枝太郎は遠く思いやった。そうして、やがては彼らの矢じりに貫かれなければならない玉藻の運命をも思いやった。こうした考えに心を迷わせている間に、彼の祈祷はおのずとおろそかになった。その怠りがすぐに師匠の眼についた。
「千枝太郎。きょうは大事の日じゃ。おのれはならぬ。さがれ」
 泰親は激しく彼を叱りつけて、祈祷の壇から追い落とした。そうして泰藤という他の弟子に代らせた。
 その日の未《ひつじ》の刻(午後二時)である。泰親は四人の弟子たちから青、黄、赤、黒の幣《へい》を取りあつめ、自分の持っていた白い幣と一つにたばねて、壇を降って縁さきに出た。折りから音を立てて降って来た霰のなかに、彼は東国の空を仰いで五色の幣を一度に投げあげると、四つの幣は宙を舞って元の庭に落ちたが、唯ひとつの白い幣はさながら白い鳥の飛ぶように、高い空をどこまでも走って行った。
 泰親は跳りあがってそのゆくえを見送った。
「あの幣の落つるところに妖魔は確かに封じられた」
 あたかもこの日のこの時刻である。三浦と上総とは霰のなかで那須の篠原を狩り立てて、金毛の狐を射倒したのであった。三浦の黒い矢は狐の頸筋を射た。上総の白い矢は狐の脇腹を射た。その注進はわずかに五日の後、早馬を以って都に伝えられた。
 播磨守泰親は再び面目を施した。しかし重ねがさねの心労で、彼はその後|十日《とおか》ばかりは病いの床についた。その間のある夕に、千枝太郎は看病の枕もとをぬけ出して行くえが知れなかった。病いが癒えてから泰親はそれを知って、溜息をつきながら弟子たちに言い聞かせた。
「彼はおそらく那須野へさまよって行ったのであろう。所詮かれの面《おもて》にあやかしの相は消えぬ。救おうとしても救われまい。これも逃れぬ宿世《すくせ》の業《ごう》じゃ」
 弟子たちももう彼のゆくえを探そうとはしなかった。

    三

「その狐は顔だけが雪のように白うて、胴体や四足の毛は黄金《こがね》のように輝
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